家路

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 でも、これって日本画…て、ことは。 「素敵…すごく綺麗」  部屋に来た静流が思わずため息混じりの驚嘆だ。省吾が手を引き、その絵の前に呼ぶ。二人で絵にじっと見入っている。 「昭夫」 「うん、翠川画伯の作品だよ。茜音さん、今は水戸でギャラリーやってるだろう?そこで随分前に買わせてもらった。もちろん当時は友達価格で」  じいさんは俺が竜雅をじいさんに預けた3年後に亡くなっている。    あの時からじいさんは、竜雅をまともな人間に戻す為にその残りの時間全てを掛けてくれた。  人間として生きるために必要な全ての事と、画家として生きて来たその険しい人生の全てを。  ずっと気にされていた愛孫の茜音さんは、じいさんの遺言によりその絵をすべて譲り受け画商などを始めていた。もちろん、あの家は出てしまっている。  そして竜雅は今、若き日本画界の新星としてその頭角を現した画家だ。そして画商である茜音さんの立派な片腕だという。 「翠川画伯の絵は買うのが大変なんだよ。だって茜音さんが気に入った人にしか絶対売らないんだから」  商売として成り立つかどうかははなはだ疑問だが、茜音さんは相変らずらしい。 「昭夫、これ高かったろう?」 「いや、俺はお前の友達なんで。そんでも当時50万位したけど、今はきっとその3倍か5倍だ」  やっぱり。  値段を聞いて息子達がビックリしてるよ。  昭夫の絵で3倍か5倍…じゃ、こっちの絵は…よそう。家に置くのが怖くなる。 「親父、そんな高価なもの頂けないよ」  省吾が困った顔で、昭夫じゃなくて俺に言う。昭夫が笑った。 「いいからもらってくれ省吾。この絵な、俺にとってはお前のお母さんのイメージなんだよ」 「え…」 「この絵を見た時、俺はどういう訳だか紗織を思い出した。受け取ってくれ、俺からだけじゃなくて紗織からもって事でさ」  省吾は絵と静流を交互に見た。静流が頷く。   「わかりました羽鳥さん、ありがたく受け取らせて頂きます。本当にありがとうございます」  省吾と静流が二人で並んで頭を下げた。    昭夫はちょっと照れた風に笑う。久しぶりにこいつの口から紗織の名前を聞いた気がする。  昭夫もまだ独り身だ。本人は仕事が忙しいとか言っているが、実の所本当の想いはどうなのかわからない。  ―――あの時、最後に紗織に会ったのは昭夫だった。 「昭夫、真っ昼間だけど一杯やろうぜ。もうすぐ俺のトラック仲間も祝いに来てくれるんだ。お前の知ってる戦国も来る、賑やかになるぞ」 「へぇ、そいつはいいな」  まだ絵に見入っている省吾と静流を残し、俺たちは居間に移動した。  もうすぐ大勢の友達がこの家にやってくる。俺の大事な者を祝福する為に、わざわざ遠い道のりをいろんな所からやって来てくれるんだ。  
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