通り雨

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 それから南さんとは、時々その店で出くわした。と、いうか彼も仕事帰りにその店を利用するのが日課だったので、お互い気が付かないだけで今までも店の中ですれ違ってはいたのかも知れない。 「そうかぁ、南さんはトラックの運ちゃんか。大変そうやな」  今日は受付で彼と会った。お互いちょっと時間に余裕がありそうだったので、一緒にカラオケをどうかと誘い、快諾してもらう。  たまには少し、彼と話してみたかった。 「トラックっていうか、海外コンテナトレーラーだけどね。あんまり遠くに行かない分、安いけど身体には良い。色々ポンコツで無理出来ないんもんで、毎日家に帰れるだけでもありがたいです」  彼は出身は東北だそうで、この大阪には縁あって単身赴任にような形で来ているという。一応既婚だとか。 「鯉さんの方がすごいよ。弁護士なんて想像つかないくらいしんどそう」 「う〜ん、いつも同じ案件ばっかじゃないからな。確かにそれが大変ではあるけどやりがいはある。色々書類とかは本当にめんどいけど」  南さんとは昔のフォークソングのハモリが出来たりしたので、会えばそれが楽しみで。  色々会話を重ねていくうち、南さんが昔医療技術者だった事を知った。大きな病院にも勤務していた事もあったそうだが、訳あって現在のトラック乗りという仕事に落ち着いたという事を聞いた。 「しがらみが無いのがいい。荷物積んで会社を出ちまえば自分が社長だから」  そういう彼だった。彼にもここに至るまでに色んな事があったんだろうな。  しがらみが無い。  その言葉が、俺の胸に妙に響いていた。
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