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教室に行くと、入口に立つ私の姿にみんなの視線が集まった。
今日は来たんだ、という目、目、目……。
「お前んちの特効薬で治ったのか?」
楓太という男子に囃し立てられた。小さい頃、山とか川でよく遊んでいた仲間の一人。小四と思えないくらいの長身で横幅もある。図体だけじゃなくて態度もでかい。
楓太は昔からいつでも何でも面白おかしく大声で言う。ちょっと前なら笑えたけど、今の私に笑えるものはない。
教室にいる彼の大きな声が今では苦手だ。大きな声を上げれば、良くも悪くも注目を浴びる。現に楓太はクラスで目立っていて人気者だ。担任の先生からも気に入られている。
楓太みたいな子は、例え村の外に出ても上手くやっていけるんだろうな。
だったらここでしか生きられない私の居場所を少しでも空けておいてくれたらいいのに……。教室のほんの片隅でいいから……。
「やめなよっ」
誰かが突然言った。
「怒らせると呪いにかけられるかもよ?」
聞こえた方へチラッと目線を向ける。由香里ちゃんと目が合った。由香里ちゃんも楓太と一緒でよく遊んでいた一人だ。私と目が合った由香里ちゃんは直ぐに表情を強張らせた。
「おーこわっ」由香里ちゃんの隣に立っていた女子が言った。名前も顔も知らない子だった。
クスクスひそひそ、聞いていて居心地悪い声の間を俯きながら歩いて自分の席に向かう。
途中で誰かに「おいっ」と声を掛けられて、ビクッと肩が揺れた。立ち止まりそうになるけど、どうにか進んで自分の席まで辿り着く。たちまち「無視」という言葉が飛び交う。怖くて顔を上げられない。
私をまた明日学校へ行けなくさせる。
みんなの心ない声がそうさせる。
じいちゃんの薬は本当によく効くと村中で評判だ。私はそれを誇りに思っている。じいちゃんの薬は凄いのに、馬鹿にされたみたいで腹が立った。
私は誰からも見えないように机の下で握っていた拳に、グッと力をこめた。
じいちゃんの薬の効力も追いつかないほど、私の体はみんなの声に蝕まれているんだ。
でもそうなってしまう本当の原因は、弱くてもろい私にある。
ごめんね、じいちゃん……。
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