四、身代わり

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四、身代わり

 六年生の終わりが近付く頃には、わざと遅れて学校へ行ったりするのも、教室じゃなくて図書室や保健室で勉強することにも慣れっこになっていた。教室にいた頃の自分なんてもう想像できない。当然そこに懐かしさなんてものはない。  (うち)は薬屋だから、行く行くは自分も店の手伝いをするんだろうなって漠然に思ってはいた。  店は代々続いてきている。この村ではよくある話。村事態がそうだと言ってもいい。  でも、ばあちゃんとがいなくなった今、自分の将来なんてものは不安の塊でしかなかった。それを言ったら父さんたちはきっと私以上だと思う。  父さんは私が学校に行かないことをどう思っているんだろう。  じいちゃんの店を継ぐことを決めてから勤めていた会社を辞めて、生まれ育ったこの村に戻ってきた父さんだけど、きっと今じゃもう薬と店のこれからのことしか頭にない。  父さんは元々口数が少ない方だったけど、のことを切っ掛けに更に口を開かなくなった。だから余計に父さんが私に対して何を思っているのか分からない。  でも母さんは父さんと違った。私が度々学校を休むようになってから、母さんは育児書のような本を買ってきて読むようになっていた。本にカバーをしてあったから最初は気付いていなかった。気付いたのは、私が不登校になってしばらく経ってからのことだった。  ある夜中、トイレに行ったあと水を飲もうと台所に向かうと、居間のテーブルの上に、母さんがいつも読み物をするときに必ず掛ける眼鏡と一緒に本が置きっぱなしになっているのを見つけた。  私は本を手に取って灯りの付いた台所に持っていくとパラパラとめくってみる。心、悩み、孤立とか、かいつまんでもニュースや新聞でよく見聞きするような言葉が書いてあった。それらを目にした瞬間、頭をどこかに打ち付けたような衝撃が私を襲った。  いつも家のことや店のことで忙しそうな母さんは、悩んだり行き詰まったりすると、知識のある誰かが書いた本に頼るところがあるのを私は知っていた。  例え解決出来なくても、望む方向に進まなかったとしても、自分は向き合ったという確証が得られるから。形として残して、それらを自分の胸に留めておくことができるから。  でもそれは、私に限ったことではなかった。私の兄。トシ兄の時もそうだった――
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