四、身代わり

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 父さんたちが会社を辞めてこの村に越してきた本当の理由。  父さんが滅多に口を開かなくなったのと同じように、母さんも慣れない土地でがむしゃらに頑張ることで辛い現実から目を逸らそうと必死になっていた。  私と理由は違ったけど、あの時も母さんは、トシ兄の病気についていろんな本を読みあさっていた。その時のことを思えば、私は今でも胸が苦しくなる。  生まれた時から心臓と肺が悪かったトシ兄。十年は生きられないと、当時かかりつけだった医者から宣告されていたそうだ。  トシ兄の体を想えば、空気の良い山に囲まれたこの村に移り住んだ方がいい、都心で暮らすよりも、田舎で残された時間をゆったりとした気持ちで過ごせた方がいいと母さんと父さんは考えた。トシ兄本人もそれを望んだ。そしてトシ兄が小学校に上がるタイミングで父さん達はこの村に引っ越してくることになる。  この時もしかしたら、医者に宣告されていた期間よりも長く生きられるかもしれないという僅かな期待が父さんたちの中にあったと思う。もちろんトシ兄本人にも。実際医者が言ってきた年数よりトシ兄は長く生きれた。  父さんが薬屋を継ぐ決心に至るのと、母さんが都心での生活を捨ててこの村に移住する決断に至るには十分な理由だった。この時私はまだ母さんのお腹の中にいたから、父さんと母さんがどんな思いで決断したかは想像でしかない。  きっと父さんも母さんも、死んだのがトシ兄じゃなくて私だったらと今でも心の何処かじゃ思ってると思う。  私もそうだったら良かったのにって思う時がある。こんな自分、この世界から消えてなくなればいいって思う。
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