七、じいちゃんの薬

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七、じいちゃんの薬

 じいちゃんの家は、明治時代から代々続く〝清河堂〟という薬屋を営んでいる。  店で扱っている薬の種類は様々だけど、主に先代から秘匿を受け継いだ墨玉(すみだま)という胃腸によく効く漢方薬を作って売っている。その名の通り、見た目が墨のように真っ黒い色をした丸い薬だ。  墨玉を保管している場所というのが家の敷地内にある蔵になる。けれど、或る日その蔵から毎晩薬がなくなるようになったのだ。それに気付いたのは、いつも蔵の戸締りをしているじいちゃんだった。  創業百年以上続いた今までこんなことは初めてで、当然どこかのコソ泥の仕業だろうと家族みんながそう疑っていた。  私は、もしかしたら自分に対するみんなからの嫌がらせの延長線なのではと、内心ビクビクしていた。  父さんは直ぐに村の駐屯所に連絡をいれようとしたけれど、それにはじいちゃんが先ず待ったをかけた。 「しばらく様子を見よう。ことを荒立てて、村中で変な噂が流れても嫌だしな」  この家で一番偉いのはじいちゃんだ。代々続いている薬の秘匿を守ってきたのもじいちゃん。昔は散剤だったのが、飲みやすいようにと今売ってる形に変えたのもじいちゃんだ。この家でじいちゃんに逆らう者はいない。だから息子の父さんもいつも以上に黙ってことを進めるほかなかった。  父さんは、警察を呼ぶにしても取り敢えず証拠をと、防犯カメラを蔵の中に設置することにして、稲作をしている家から使わなくなったカメラを一台借りて来た。害獣対策のひとつとして使っていたけど、あまり性能が良くないせいか、屋外では効果がなくて随分前に使うのを辞めたらしい。  早速カメラを設置して父さんたちは一晩様子を見ることにした。翌朝蔵を覗いてみるけど、やっぱり薬はなくなっていた。でも設置したカメラがある。これで犯人も分かるだろうと、家族みんなで期待しながら固唾を飲んでカメラの映像を覗き込んだ。 「――怪しいもんは映ってないみたいだな……?」 「取り付ける位置、間違ってないわよね……?」 「入口はそこにしかないだろ」  再生した映像には犯人らしき者どころか、ネズミ一匹すら映っていなかった。  次の日も、その次の日の朝も確認するけどカメラには何も映っていなくて、それなのに薬はしっかりと盗られていた。  怒りがこみ上げてくるよりももう呆れるしかないといった様子で、父さん達はカメラをもう一台増やしてまた数日様子を見ることにした。
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