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けれど数日記録されたカメラの映像には、どれにも何かが映ることはなくて、そしてやっぱり朝になると薬は無くなっていた。
毎日蔵に保管されてある薬を調べているうちに、一つ気になる点というか気付いたことがあった。それは、盗られた墨玉が毎晩決まった同じ量だけが消えているというものだった。そう多くはないけれど、くれてやるという量でもないからただただ気分が悪い。
仮に転売でもするようなら、もっと一度にたくさん持っていく筈かと思う。常備するだけと言うなら適量なのかもしれないけど、ご苦労なことに毎日盗っていくところをみると、こちらの理由も腑に落ちない。そう推測した父さんは頭を抱えていた。
そこでじいちゃんは、もう機械なんかに頼れん! 自分が見張ると言って、一晩蔵に泊まることにした。
けれど、朝になるとやっぱり薬はなくなっていた。納得がいかないじいちゃんは、その後も見張りを三晩続けたけどこれといったことは何一つ起きない中やっぱり薬は盗られていて、
それを見兼ねた父さんもじいちゃんと一緒に蔵に寝泊りすることにした。でも、二人で交代して見張っていたと言うけど結果は同じだった。
とうとうじいちゃんはすっかり元気を無くしてしまった。父さん達も途方に暮れるけど、それでもじいちゃんと父さんは薬を作るために釜戸に向かい続け、母さんも店に立ち続けた。
このままでは、犯人を捕まえる前にみんな体を壊してしまう。私も何か力になれたらと考えたけど、子供の私に出来ることなんてたかが知れてる。私は薬より三人の様子が気になって、自分のことはそっちのけで落ち着かない毎日を送っていた。
するとしばらくして、どこから聞きつけたのか、三件隣に住む宗一郎爺さんがやって来た。三件隣と言っても、うちから二キロ近くも離れている。
宗一郎さんはじいちゃんの昔からの友人で、今でも家を行き来するほど仲が良かった。
宗一郎さんの家は〝風松堂〟という和菓子屋を営んでいる。
幕末にあの新選組が仕えていた会津藩藩主に献上したことがあるというほど、お茶によく合う美味しい草餅をつくっていることで有名だ。
今は道の駅などのお土産屋には外せないものとなっている。それ以外にも、村中の人が食べる年超しの餅をこさえているのも宗一郎さんの店だった。
うちでも毎年年末が近付くと、大きく板状に伸ばしたのし餅を宗一郎さんちから買う。それを切り分けて保存しながら、毎年厳しい冬を乗り切っていた。
そんなかの有名な風松堂の店主である宗一郎さんが突然うちの店にやって来て言った。
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