七、じいちゃんの薬

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「これは人間の仕業じゃないかもしれん」  聞くと自分がまだ生まれたか生まれていないか定かでない昔に、風松堂で同じようなことが起こったのだと言う。何でも早朝についた餅が、やはり毎日なくなったと言うから確かにうちに起こっている内容と似ていた。  でもお餅は美味しいけど薬は、特にうちの墨玉は大人でも顔を歪ませずにはいられないほど苦い。 「それでどうなったんですか?」訊いたのは普段滅多に口を開くことのない父さんだった。  無口な父さんが急に口を開いたから私は驚いた。早く解決の糸口をつかみたい。そんな思いがいつも以上に父さんの固い表情から伝わってくる。それは私も同じ気持ちだった。 「当時は隠しカメラなんてもんはないからな。人を立たせて見張りをつけたんだが、朝には消えているっていうんで、もしかしたら幽霊の仕業じゃないかって話になってなぁ……」 「俺んとこも、カメラも見張りも試したけんど駄目だった」 「じゃろう?」 「でも……ゆうれいって……?」  家族みんながユウレイという言葉に眉根を寄せた。昔の人はそういうものに結び付けたがる節がある。そう思ったのだろう。  でもこの時、恐らく私ひとりだけが、宗一郎さんの言っていることが腑に落ちていた。  視えないものがやったというのは、私の中では極自然な(ことわり)だったから。  だって現に今でも私にはみんなに視えないものが視えたり、聞こえたりしている。 「――それで、やっぱし幽霊の仕業だったんか?」  じいちゃんが話の続きを促して、宗一郎さんが続ける。 「いや、それがな? 人でも幽霊の仕業でもなかったんだと……」 「人でも幽霊でもない……って――じゃあ動物ですか? サルとか狸とか? たしか小関さんちがこの間畑をやられたって……」  母さんが思わずといったように言った。でも畑の作物なら分かるけど、動物が薬なんかを好んで盗って食べるだろうか。と私は思う。何度も言うけどあんな苦いものを。  それに扉に錠が掛かった蔵にどうやって忍び込んだのかという謎も残る。どこかに動物しか出入り出来ない小さな穴でもあるのかな。なんて考えていると、宗一郎さんが不意に言った。 「なんでも(あやかし)の仕業だったらしいんだ」  それを聞いた私達家族は顔を見合わせて固まった。
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