心は染まらない

　「また、その色か。さっさと黒くしてこい！」

　風紀担当の教師の怒鳴り声に、横の瑠唯(るい)が俯(うつむ)きながら頷(うなづ)いた。

　「ったく。何度も同じことを言わせるな。
　次に同じことを言われたら、どうなるか分かってるのか！」

　涙目になった瑠唯が、もう一度小さく頷いたのを見て、私は教師に苛立(いらだ)った声を向けた。

　「先生、授業前の準備をしたいんですけど、まだあるんですか？」

　学年トップで東大合格確実の成績は、こういう時に役に立つ。実際、私が睨(にら)むと教師は急に静かになった。

　「あ……いや、終わった」

　相手が私だと大人しくなる、この教師のことを心から軽蔑する。でも、それは心の中だけにして、表面上は冷静に返す。

　「そうですか。
　それでは工藤(くどう)さんも行っていいんですね」

　瑠唯を連れていくと言うと、少し渋い表情だ。私に睨まれた不満を瑠唯で晴らすつもりだったのかもしれない。