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ノブは私の話しを信じた。
海の星を空が写し取る。
藍空はやがて無限の闇が広がり、はっきりと丸い月が出る。
「ノブ、髪を解いてくれる?」
ああ、とノブは縄のように編んだ私の髪をほぐす。
うねる髪に月明かりが落ちる。闇に浮かぶ漆黒はじわりじわりと七色に変化する。
「これは見事!」
袷から櫛を出しいつものように髪を梳かせば星の子が跳ねた。
「おお!!」
星の子は辺りに散らばり海に輝きを散らす。
「これが鮮彩染の材料なのか」
「ええ」
「美しい」
ノブに褒めてもらえて嬉しいが礼は言わない。
その代わりノブにお願いをする。
「ねえ」
「なんだ」
「私の髪を切って」
星の子を見ていたノブの視線が私を差し、なぜ、と強く問う。
「要らないの」
「髪が?」
「ううん、鮮彩染が。もう描かない。描きたくないの。お父さん――マムシの言いなりにはなりたくない」
「その決意は認める。だが髪は帰蝶の一部だろう。本当に良いのか?」
私は袂にある巾着袋を出し、紐を緩めて中身を出す。昨日の星の子がよたよたと歩き海に落ちていく。
「重たいのよ」
――心が。
軽くなりたい。そのためには自分が変わりたい。
目を閉じる。私の覚悟を感じたのだろうノブの腰にある刀がカチと鳴った。
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