せんさいせん

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 ノブの袂から縄が出てきた。 「いつも持ち歩いているの?」 「檻を抜け出すのに必要でな」  ノブは悪びれなく笑うと、その縄を私の腰に回す。 「どうするの?」 「儂と帰蝶を繋ぐ」  意味をはかりかね首を傾げる私に、ノブは背中に乗れという。  言われるがままに従ってしまうのは、染み付いた癖のようなもの。  ノブの背中に乗ると、ノブは私の腰に回した紐で、私とノブを固定した。 「帰蝶は目を閉じていた方がいいだろう」  目を閉じて額をノブの背中に預ける。 「しっかり儂に掴まっておけ! よしっ」  ノブの身体は屈強だった。柔らかさなど皆無で、肉が引き締まっている。  目を閉じてしまったため、ノブが何をしているのか見ることは叶わないが、ノブはどうやら崖肌を伝いおりているようだった。  しばらくして、どん、と振動が伝わる。 「下に付いたぞ。目を開けてみるか?」  そっと目を開ける。目蓋の隙間に差し込む下界の光はおだやかで、爽やかな香りが鼻をくすぐる。  縄を解かれ、ノブの背からおりる。 「魔物がおるか?」  首を横に振る。 「もし魔物がおれば、儂が叩き切ってやるから安心せい」 「それは頼もしいわね」 「少し歩くが森を抜けよう」  木々が鬱蒼と繁る森は薄暗い。 「怖いか?」 「ええ少し」  大木などにはもしかすれば目や鼻や口があり、根は足のように動くかもしれない。奇妙な想像をして身体が強張る。  ノブが固まる私の手を握る。大丈夫だと、私を安心させる微笑みに、肩の力がゆるむ。  
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