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「帰蝶どうした?」
人通りの少ない場所に出てノブはそう問うてくる。
「さっきの……」
「あの女か? あれは花街の女だ」
「はなまち? 着物は?」
「センサイセンのか? 花街の女に人気だそうだが」
「せんさいせん?」
「彩り鮮やかに染める……だったか、それで鮮彩染と」
「……」
「帰蝶?」
「ま、……マムシさんというのは?」
鼓動が異様な早さで胸を痛めつける。
「質の悪い男の名だ。その鮮彩染の反物を高値で売付け、その金で女や酒を喰い散らかし、思い通りに行かなければ女子供だろうと容赦なく切り捨てるらしい。役人も捕まえるべく躍起になっているが、これがなかなか捕まらないときた」
ノブは深く息を吐き出した。
私は息が吐き出せず呼吸が止まる。
「帰蝶? 帰蝶!?」
私の身体がふらりと傾いだ。
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