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ウィーーーーーーーーーン ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ ウィーーーーーーーーーン 足元から響く轟音によって、意識が戻った。 「ここは……どこだ?」 ……わからない。それに…… 「そもそも私は誰だ……?」 サインアウト済みのシンクライアントのように、私から私の記憶は抜け落ちていた。 ガシャンッ!!! 痛ッーー。 痛みの根源、左斜め上に視線を向けると、そこには枷につながれた私の左手首が赤く滲んでいた。 「なんでこんなことに……。私が何をしたって言うんだ」 ウィーーーーーーーーーン ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ ウィーーーーーーーーーン 轟音は私の呟きを押し潰すように響き続ける。 そもそも、この音は何の音なんだ。 辺りを見回すと、果てしなく続くベルトコンベアの上に、私がいることが理解できた。 それはまるで、ごみ焼却炉の入り口へ刻一刻と近づく思い出のような……。 「誰かっ!!!誰か助けて!!!死にたくない!!!!!死にたくないっ!!!!!!!」 命の危険に対する身の防護、それはまさしく無意識に繰り出されるものだった。 そんな私の願いが通じたのか、突如として足元から轟音が消える。これが予定された停止ではないことを、けたたましいサイレンが視覚と聴覚に攻め入ってくる。 「助かった……のか?」 静かになったことで、ふと我を取り戻す。周りを見渡すと、めちゃくちゃ大勢の人が、同じベルトコンベアに無の表情で整列していた。 早く逃げなきゃ。 「みなさん、逃げましょう!はやく!!!」 「「「…………」」」 「何で無言なんですか!こんなところ!はやく、はやーー」 ウィーーーーーーーーーン ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ ウィーーーーーーーーーン 逃げられるチャンスはものの数秒であった。すぐさまベルトコンベアは回転を再開し、私はしがみつくだけで精一杯だった。 ベルトコンベアが動き出して15分ほどはたっただろうか。その時は突然訪れた。 ダゴン!!! 左手首に枷がはめられたまま、私は右半身を巨大な一枚板、鉄板に押し出され、気がつけば一個隣に存在していたベルトコンベアに立ち尽くしていた。 だんだんベルトコンベアの速度が緩くなる。 なんだか手の力も緩む……。 あれ、枷から左手首かするりと抜け落ちる。 最初から枷は手首を止めてなんかいやしなかった。自発的に、枷に身体を預けていたのだった。手から握力が減り、熱放射を感じたタイミングで、なんだか意識も戻ってきた。 そうだ、俺はなんてことない普通のサラリーマン、社畜。今日も満員電車にぎゅうぎゅうに押し込まれ、すり減らされ、人身事故に見舞われながら、歯車らしく所定の位置に戻るだけだった……。 『品川、品川です。ご乗車ありがとうございました。どなた様もお忘れ物ございませんよう、お気をつけください。お仕事、行ってらっしゃいませ』
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