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トイレを済ませて部屋に戻ると、聖と女子がデュエットを歌っていた。
アルコールが入っているからか、聖は隣に立つ女子の腰に手を回していて、彼女も聖にもたれている。
傍から見れば、お似合いのカップルだ。
「絢ちゃんはお酒飲まないの?」
もう何度目か、またお酒を勧められる。
年齢確認がないからアルコールが提供されているけど、まだ私は18歳だ。大学生にもなれば、お酒を飲む場に参加することはあるけど、未成年だ。
「苦手なので――」
断ると、男子はそっかと頷いて、お酒を飲む。
「すいません、私そろそろ…」
さっきトイレで、地元に帰る電車を調べた。
今は21時で、もう少ししたら終電の時刻だ。
「えっ」
お酒で顔を赤くした聖が、素っ頓狂な声を上げる。
彼を横目に、私はカラオケ代をテーブルに置き、部屋を出た。
「送って来る」
後ろから、聖の慌てた声が聞こえる。
「佐々木、待てよ」
「どうして?」
「今日、泊まってくんだろ。どこ行くんだよ」
「やっぱ、帰ろうかなって」
「だから、何でだよ」
何でだよ?
逆に、どうしてわからないかな。
気が付けば、両目から涙が零れていた。
「佐々木…」
観光の間、私は名字呼びだけど、同じ大学の女子のことは下の名前で呼んでいたのを知っている。
高校の時、2年付き合っていたけど、私はずっと名字呼びだったのに。
恋人である私は名字呼びで、特別ではない彼女たちが名前呼びされていたのが、ずっと引っかかっていた。
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