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あんなに小さかった一人息子がこんなに立派になるなんて思いもしなかった。一人息子は花束のあとにリボンのついたワインを私に見せてくる。
「二十歳になったら、お父さんと一緒にお酒を飲みたかったんだ。少しでもお父さんと肩を並べたくて」
やっぱり読むべきじゃなかった気がする。背筋がじわじわと痒くなる。
「ねぇお母さん、二十歳になったらこれやらなきゃならないの? 言わなきゃならないの?」
「喜ぶんじゃない?」
本当かよ? いやでも、お父さんの一番の理解者はお母さんだ。多分、間違いはないだろう。
続きをさらに読む。
一人息子の酌み交わすアルコールは一生のうちで一番の味わいがあった。赤ら顔の一人息子はやはり酔ったのか、胡乱な目をしている。
「へへ。やっぱりはじめてのアルコールは効くや。俺さ、お父さんみたいになるから。お父さんみたいに美人なお嫁さん見つけて、お父さんに自慢してやるんだ」
背筋がぞわぞわする。多分、悪寒ってやつだ。
「お母さん……、これ言わなきゃならないのかな? ハードルが……」
「言ってくれたらお母さんは嬉しいわね」
「そ……そう……。もういいや……」
俺は続きを読むのを諦めた。これ以上は進むなと俺の勘が言っている。
「あら……。でもお父さんのこと、今よりは知れたでしょ?」
「う……うん……」
と言ってもお父さんに読んだとは言えない。二十歳まで我慢しよう。二十歳になったら、きっとお父さんのために一日だけお父さんの理想の一人息子を演じよう。喜ばせてあげたいし。
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