君を染めた僕の赤色

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休日を迎え、僕は約束通りに霧子の庭仕事を手伝うことになった。 妻と一緒に庭に花を植える。絵に描いたような夫婦の素敵な休日だ。 「僕は何をすればいいの?」 「桃色のシクラメンが植えてある一画に、何も植えてないスペースがあるでしょう。そこの土をショベルで(ほぐ)してもらえますか」 「お安い御用だよ」 霧子の指示に従い、桃色のシクラメンが植えてある庭の一画でしゃがみ込み、小さなショベルで土を解していく。 「そういえば、新しく植える赤いシクラメンはもう用意してあるの?」 これから植えようというのに、赤いシクラメンのポッドなどが見えない。計画的な霧子に限ってまだ用意していないなんてことはないと思うが。 「植えるんじゃありません。赤く染めるんです」 「えっ――」 背後から聞こえた霧子の冷淡な声と共に、後頭部に強烈な一撃を受けた。脳が揺れ、堪らず僕は膝をついた。恐る恐る後頭部に手で触れると、ベッタリと赤い血が付着していた。 「……霧子?」 霞む視界に霧子を捉えると、その両手には園芸で使うレンガブロックが握られている。そこからは僕の血液が滴り落ちていた。女性の霧子でも、しゃがんだ僕が相手ならブロックで後頭部を一撃できる。 「……何で、こんな」 「あなたの不貞に、私が気付いていないとでも思っていたの?」 体を襲った悪寒が罪悪感なのか、血が失われたせいなのか。意識が朦朧としていて最早判断がつかなかった。 「いっそ夫婦生活が冷え切っていたなら、最低な男と侮蔑することも出来たかもしれない。だけど、あなたは私に対していつだって優しかった。だからこそ許せなかった。どうして私だけじゃ駄目なんですか!」 「止め――」 頭部に追撃が振り落とされた。直前の比ではない出血が飛び散り、僕の眼下に咲いていた桃色のシクラメンへと降り注ぐ。鮮やかな桃色の花園が、僕の血で真っ赤に染まっていく。 「あなたを誰にも渡したくない。だったら今この手で」 「……止すんだ……霧子……」 「頼彦さん。赤いシクラメンの花言葉を知っていますか?」 付き合いたての頃に、僕に桃色のシクラメンの花言葉を教えてくれた時のような、優しい声色だった。だけどその瞳には生気がない。霧子の視線の先にあるのは虫の息の僕だろうか? それとも赤いシクラメンの花だろうか? 「赤いシクラメンの花言葉は【嫉妬】ですよ」 生き地獄ではない。僕は本物の地獄に落ちるらしい。これも因果応報か。 シクラメン(きりこ)赤色(しっと)に染め上げたのは僕の(あやまち)だ。 霧子が渾身の力で振り下ろしたレンガブロックが、僕の意識を摘み取――。  了
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