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最悪な出会い
「お疲れ様でした。お先に失礼しますっ」
早口でまくし立て、まだ居残っておしゃべりをしている従業員に頭を下げながら足早にエレベーターに向かう。
「はぁい。満月ちゃんお疲れぇ」
遠くで声が聞こえる頃には、エレベーターに乗り込み降りるボタンを押していた。
満月は、下っていく数字を眺めながらソワソワとしていた。
満月が働いているのはビルの5階にある雑誌編集社。
あまりメジャーな雑誌では無いが、コアなファンが居るおかげで生活が成り立っている。
満月はそこで、アルバイト的な立ち位置で雑務をこなしている。
正社員に何度か誘われているのだが、まだ返事を返していない。
チンッとズレた鈴の音と共にエレベーターの扉が開いた。
“今日はどうかなぁ”
外はすっかり暗くなっている。
ビルから外に出て、漆黒の空を見上げる。
「なんか、曇ってきそう」
家路を急いだ。
途中コンビニに寄り缶ビールとつまみを手に取りレジに並んだ。
立ち寄ったコンビニは常連で、レジをしてくれる若い男の人とは仲良くなった。
「お疲れ様です。今日も見るんですか?」
店員はバーコードをスキャニングしながら話しかけてくれる。
「うん。でも今日は雲がありそう」
「今夜遅くは雨みたいですよ」
「じゃあ急がなきゃ」
お互いに微笑み合いながら、会計を済ませた。
「今度僕も見たいです。満月さんと一緒に月を」
満月は笑みだけ返し、ビールを掲げて挨拶がわりにした。
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