雨は上がった

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 達哉(たつや)くんが息を切らせながら向かってきた。 「ご、ごめ……。待った?」  私がチラッと見ると、肩で息をしながら遠慮なく隣に座った。吹き出る汗をハンカチで何度も拭くけどキリがない。  川沿いに散歩道や休憩できる場所のある憩いの場。私たちは放課後になるとよくここのベンチで待ち合わせをした。私のカバンと達哉くんのカバンには、お揃いのキャラクターのキーホルダーが揺れている。 「藤村先生に引き止められてた」 「あぁ、進路のこと?」 「うん」 「大学決めたの?」 「迷い中、由莉(ゆり)ちゃんは?」 「迷い中」  川のせせらぎを聞きながら、初夏の日差しを避けるように木陰のベンチで涼んでいた。隣に座る達哉くんの左手が、私の右手から十数センチ先にある。    達哉くんがクラスメイトの話や昨日見たバラエティー番組の話を、友達と話すようにしゃべり続けている。私は相槌を打ちながら少しずつ少しずつ右手を達哉くんの左手に寄せていく。  鼓動が私の中で響く。ジリジリと寄せていく私の右手。あと少し、あと少し……。 「あ〜、喉渇くわ〜」    達哉くんはカバンから水筒を取り出して、お茶を飲んだ。  私はビクッとして、手を引っ込めた。あぁ……、あと少しだったのに……。  残念に思う気持ちを表情には出さずに、達哉くんの隣に座っている。ゴクゴクとお茶を飲む達哉くんの喉仏が、器用に動くのを眺めていた。
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