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2.聴き慣れたイントロ
狐乃音は小さな女の子。
小学校の低学年か未就学児くらいの背丈で、紅白が鮮やかな巫女装束姿。紅白の和紐できゅっと結んだ長い髪。つやつやもちもちの白い肌。とっても和風な雰囲気。
それに加えて極めて特徴的なもこもこした狐尻尾。感情表現するかのようにぴょこぴょこと動く狐耳。
狐乃音はそんなマスコットキャラクターのように愛らしい見た目だけど、これでもれっきとした神様。不思議な力を持った稲荷神なのだった。
ずっと長い間、近所の大きなお屋敷の社に祀られていた。けれど時代の流れからか社が壊されてしまい、路頭に迷ってしまった。
どうすればいいのかわからずに困り果て、散々街を彷徨った。そうして歩き疲れ、遂に路地裏で行き倒れてしまった。
そんなところを、見知らぬお兄さんに救ってもらったのだった。
「お兄さん」
「何かな?」
「何か、お手伝いできることはありませんか?」
在宅で働いているお兄さんと、居候の狐乃音という関係。狐乃音は少しでもお兄さんの役に立ちたいと常日頃から思っていた。
命を救ってくれたばかりか、住む場所も与えてくれた。それだけじゃない。日々いろんなことを教えてくれて、まるで実の娘かのように優しくしてもらっていた。
狐乃音にとってお兄さんは大好きな人。神様みたいな存在。
「大丈夫だよ。いつもお手伝いしてくれて、ありがとう」
お兄さんはテレビのリモコンを操作して、狐乃音がお気に入りにしているアイドルのライブ映像を再生してくれた。
聴き慣れたイントロが流れて嬉しそうな狐乃音を見て、お兄さんは少し考えながら言った。
「ねえ狐乃音ちゃん」
「何ですか?」
「観に行ってみない?」
「しょーたろさんのライブに、ですか?」
「うん」
「行きたいです~!」
狐乃音がその素敵な提案を断る理由は、どこにもなかった。
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