20.身から出た錆

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20.身から出た錆

「また、助けてもらっちゃったね」  所変わってお兄さんのお家。  翔子は早速狐乃音の手で、身も心もボロボロな体の治療をしてもらっていた。あんなことになってしまった以上、後延ばしは危険だったから。  広い和室の畳の上で翔子は敷き布団にうつ伏せ。狐乃音の小さな手がぺたりと背中に触れている。なんだか暖かいなと翔子は思った。温熱療法みたいだ。 「いいえ。でも実は、何かしら起きるんじゃないかなと思ってはいたんです。けれどあそこまで闇が深いとは」 「あははは……。まあ、いろいろあってね」 「闇は、全て消せたわけではないんです。他からきたものであれば、私がしたようにどうにかできるのですが」 「実から出た錆。自分が招いた闇は、自分でどうにかしなくちゃあ治らない。ってことかな?」  狐乃音は頷いた。  そして続けて、だいぶ申し訳なさそうに、言葉を選びながら翔子に伝える。 「あの……。しょーたろさん。大変失礼なこととわかってはいたのですが……。その……」 「……全部、事情わかってたり? 私とお母さんの会話とか」 「はい」  闇の大雲を暴走させるきっかけになった事情を、狐乃音は知っていた。  ああ、この闇は対話をするだけでは解消できませんと、対処を後回しにした。  それとともに、謝らなければならない。誰だって触れて欲しくないものはあるのだから。狐乃音は図らずも、翔子と母親との生々しいやりとりを目の当たりにしてしまったのだ。 「ごめんなさい。立ち入った事情でしたのに、私はどさくさ紛れに全てを見てしまいました。しょーたろさんに、不快な思いをさせてしまいました」 「──狐乃音ちゃんは、私にとって命の大恩人だよ。それにあの時、足の怪我という絶体絶命の危機からも救ってくれた。二度も救ってくれた子に、不快な思いなんて抱いたりしないよ。本当にありがとう」 「はふ……」  狐乃音はほっとしたのか軽くため息。 「まだ、何もお礼をしていなかったね」 「お、お礼だなんて恐れ多いです! また歌声を聞かせていただけたら私はそれで……」 「サインと写真と……限定グッズとかもプレゼントしちゃおうかな。あ、そうそう私も狐乃音ちゃんにお願いしたかったことがあったんだ。……落ち着いたらその狐ちゃんの尻尾をもふもふさせて欲しいな~」 「こ、こんな尻尾でよろしければ、お気の済むまでどうぞ~!」  狐乃音は恐縮しながら、背中の方から尻尾をくるりんと回して、触れられるようにしたのだった。
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