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15 Kyoya
夏休みは、週に1度くらいのペースで遊びの誘いがきている。
うっすらと聞いていた通り、部活は毎日長時間あって、なかなか予定が合わなかった。
でも、予定が合わなくてホッとしている自分を感じてもいた。
ホッとしながらも、昇降口の前を通るたびに、ここで「うわー」って外を見ていた佐伯を思い出していた。雨の日は特に鮮明に再生されてしまって苦しくなった。
苦しくて苦しくて、佐伯に会いたくなった。でも同じだけ、会わない方がいい、とも思っていた。
いつからか、佐伯といる時の俺はちょっとおかしい。
でもそれをはっきり言葉にしてしまったら、もう戻れなくなる気がして、俺は自分の気持ちから目を逸らし続けている。
何も考えたくなくて、無我夢中で部活に取り組んでいたら、レギュラー候補に入ってるぞと言われるようになっていた。
夜、デスクに宿題の問題集を開いて、シャーペンを持ったままうたた寝をしていたところにスマホが鳴った。
たぶん、佐伯。
あいつは何もなくても3日に1回ぐらいメッセージを送ってくる。
だから余計、夏休みなのに佐伯を忘れることができない。
スマホの画面を見ると、やっぱり佐伯からメッセージがきていた。
可愛らしいクマのスタンプからスタートだ。
ーー羽村、中島から聞いたんだけど、来週の木曜部活休みなんだろ?遊び行こうぜ!
なんで中島がそんなこと知ってんだ?
ーーあ、中島の姉ちゃんの友達が女バスにいるんだって。その情報。
俺の疑問に答えるように次のメッセージが送られてきた。
ーー羽村、見てんだから返信してよ。
少し前、遊びの誘いと部活の休みが重なった日があった。でも部活の日程は佐伯たちには分からないし、と思って「悪い、無理」と断った。
でも今回は部活がないことが佐伯に知られている。
何て返信するか。どう断るか。
会いたいけど、でもやっぱり会わない方がいい。
アプリ開かないでポップアップだけで見とけばよかった。
そう考えていると、手の中でスマホが鳴り始めた。
佐伯から、通話の着信。
考えがまとまっていない。今は出るべきじゃない。
スマホを置いてトイレにでも行っていた事にすればいい。
分かってる。分かってるけど…
「…もしもし」
『あ、羽村ー。なんだよ、早く出てよー』
すっと耳の中で溶ける澄んだ声。
「悪い。ちょっと…手が離せなくて…」
『別に謝んなくていいけどさ』
この声を聞きたいと思ってしまった。
『来週の木曜、遊び行こ?もう全然予定合わなくて遊べてねーし。このままじゃ夏休み1回も会えないで終わっちゃうじゃん』
俺は、そのつもりだったから。
会わないでいれば、佐伯が俺の中の「友達のポジション」に戻ってくれるんじゃないか、そう思っていたから。
『ねー羽村、どこ行く?どこ行きたい?部活ばっかで遊べてないんだろ?』
本当はもうとっくに、佐伯は友達以上の存在になってるって気付いていたのに。
「…俺は…どこでも…」
佐伯に会えたら、場所なんてどこでもいい。
『あ、あ、てかどこでもって事はとりあえず木曜OKって事だよな?わー、やった!マジでこのまま会えねんじゃねーかと思ってたから嬉しい』
弾んだ声と、喜びを表す言葉。
やめてくれ、勘違いする
でも聞きたい。
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