プロローグ

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 驚きから、ほんの少し醒めたのだろう。  乱れていた思考のなかで、蓮は幼稚園の黒歴史から徐々に記憶をたどっていく。  そうだ、アンケートの集計を手伝ってもらって。  そうそう、モブ子さんたちが邪魔をしてきて。  えっと、茶碗にお茶を淹れてだしたんだっけ。  さすがにコップを買いに行こうと思って。  三割引きで買えるからって小野くんが言って……えっと。  いやいや、違う。  今思い出すべきなのはそんなことじゃない。  そうだ、暑いのは熱が出ているからで。 「ダメだよ、小野くん……っ」  蓮は叫んだ──つもりが、漏れたのはあまりにか細く弱々しい囁き声だ。 「……ダメだって。こんなにくっついたら、君にカゼ伝染(うつ)しちゃうよ」 「いいです。うつしてくれて……」  何度目だろう。  やわらかな唇の感触に、蓮はぼんやりと目をとじる。  そうだ、買いものの前に大学で講義があって。  えっと、あのときは弁慶と義経の話をしていて──。
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