プロローグ

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プロローグ

 全身の熱が一か所に集まっている。  やわり。  唇をなぞるのは、柔らかな感触だ。  熱い。    これは何というものだったか。  口と口があたって、少し離れてからもう一度、唇を覆うように塞がれる。  花咲蓮(はなさき れん)はぼんやりと記憶をたどった。  寝ころんだ背中に感じる畳の感触が、やけに痛い。  部屋の端に積みあがっている書類が、足先に触れた。  ああ、論文を書かなきゃ。  来月には学会があるっていうのに。なのに全然──。  いや、そうじゃなくて。  そうだ、これはキスというものだったっけ。  ああ、何だかとてもとても久しぶりなものという気がする。
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