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#ガミコロヤマオオカミ目撃情報
「速報です。マスク姿の5人組が新宿区内で何者かに襲われ、意識不明の重体とのニュースが入ってきました。昨日公開された"ガミコロヤマオオカミ解禁"の動画の影響が凄まじい勢いで広がっていることが分かります。皆様も外出の際は気をつけてください。出来るだけ素顔を見せ、露出の多い格好が好まれます。ちなみに、襲われた5人組に"ガミコロヤマオオカミ"の特徴はなかった模様です」
包帯の隙間から恐ろしいニュースが目に入ってきた。予想以上の影響力。そして国民のスピード、行動力。やはり恐れていたことが起きた。一般人が正義を振りかざし、加減がわからなくなるこの状態。これだと、ますます外に出れない。
他のチャンネルへ回す。どこの局も"ガミコロヤマオオカミ"の特集ばかりだ。大被害を受けた富山県の烏森の映像が、繰り返し映し出されている。当時、高校生だった僕らは狂気的に盛り上がり、"ガミコロヤマオオカミ"を探しに行こうと近所の森へよく出掛けていた。もちろん高校生だけでなく、世界も動き出した。「"ガミコロヤマオオカミ"はただのUMAだ」と冷静な判断を下した国と、「確実に今のうちから対策を打っておかないと酷い目に遭う」と固く構えた国の2つに別れた。こんなようなことが歴史の教科書に書かれるだろう。
まあ今の僕にとってはそんな世界情勢よりも、自分の身が心配で心配でたまらない。
「家来て、怖くて動けない」
園子にまったく情けないメッセージを送ってしまった。とにかく今は信頼できる人と一緒にいたい。1人が怖いし、寂しい。
「警視庁では"ガミコロヤマオオカミ"の5人の目撃情報を受け付けております。決して軽はずみな嘘はつかないようお願いします。国に関わる事態です。こちら側もいただいた情報を確実に吟味してから捜査に移る次第です。目撃情報はこちらの電話番号、またはサイトのフォームよりよろしくお願いします。○○○○-○○○-○○○○/http://********」
いつもの流れで開いたTwitterに警視庁のツイートが出てきた。国が確実に動き出している。トレンドランキングを見ると、1位に#ガミコロヤマオオカミ目撃情報がランクインしていた。もうすでに100万件以上のツイートがされている。そのタグで検索すると、ズラッと様々な人物の写真のツイートが出てきた。
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"新宿御苑前で見ました。
明らかに腕が太いような気がします"
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"東京タワーあたりでじっとしてた怪しいヤツ!なんか尻のところの膨らみが不自然!「尾」の持ち主じゃね?"
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"なんかこの人マスクのとこ尖ってない?"
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"包帯でグルグルの男が住んでました。怪しすぎる。アパート載せときます"
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「は?」
包帯でグルグルの男…?
もう一度そのツイートを確認する。間違いない。確実に昨日の若者だ。少し外を覗いただけなのに、こんなことになるなんて。リツイート数は904。怖すぎる。いつ正義を振りかざした気になった勘違い一般人が襲ってくるか分からない。恐る恐る窓からそっと外を覗く。
「…」
今のところ人はいないようだ。
どうしよう。人が集まってくるのも時間の問題だろう。そのままツイートを調べ続けていると、いつのまにか夜の7時になっていた。すると、園子からメッセージの返事が来た。
「ちょっとウチは動けそうにない。君が来てよ」
園子らしからぬ文章で一瞬戸惑った。君なんて使うような性格じゃないのに。おそらく、園子も園子で極限状態なのだろう。園子の返事を受け、情報が回り切る前にこの家から出ておいた方が良い。そんな気になってきた。包帯を隠すように黒ジャージを着ていく。手袋にマフラー、ニット帽。包帯の見える隙間を全て隠す。
帰って怪しい気もするが、包帯が見えるよりはマシだ。
「今から行く。絶対無事に辿り着くから」
覚悟を決め、家を飛び出した。
ドアを開けた瞬間、強い風が吹いた。
その風が獣の唸り声のような、そんな音をしていた。
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