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ミリウスの視線の先。そこにいるのは、いつも通りの柔和な笑みを崩さない――アーネスト。
しかし、アーネストのその表情は何かに失望したような、そんな風にも見えてしまう。その表情を、セイディは一度だけ見たことがある。リリスに、失望していた時。あの時と、似たような表情だ。そう思いながら、セイディは「アーネスト様」と彼の名前を呼んだ。その声は、強い意志が宿っているような声にも、聞こえる。
「……ったく、どいつもこいつも役に立たないですねぇ」
セイディの声を無視して、アーネストは髪の毛を掻きながら、そう言っていた。その声は何処となく狂気を孕んだ、憎悪を纏ったような声。背筋が震え、寒気を与えるような声。
が、セイディはその声に怯むまいとアーネストを見据える。……彼の目は、揺れていない。ただ、憎悪を纏いセイディだけを見据えている。
「どいつもこいつも、俺の目的を邪魔する。不快で不快で、仕方がない。……最終手段は、俺自身で行くことでしょうか」
一人ブツブツと声を上げながら、アーネストはそう言う。その後、アーネストは地面を蹴った。
セイディはそれに驚いたものの、すぐに身を翻しアーネストの攻撃を躱す。そうすれば、ミリウスがセイディを庇うかのようにアーネストの剣を大剣で受け止めていた。そして、アーネストの前に立ちふさがる。
剣同士のぶつかる音が聞こえ、セイディは一歩二歩と後ずさった。……今は、ミリウスの邪魔になっていてはいけない。そう思ったから。周囲を見渡しても、ジョシュアはいなさそうだ。……数で不利になることだけは、避けたい。そう思い、セイディはアーネストとミリウスを見据える。
「アーネスト。お前は、どうしてそこまで皇帝の命令に従おうとする。……どうせ、お前も利用されているだけだろ」
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