アーネスト、現る(2)

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「いいえ、皇帝陛下は俺を寵愛してくれています。……それは、紛れもない真実だ。メリットがあるから繋がっているとしても、あのお方は俺を必要としてくれる。あの子を、守ってくれる」  アーネストの言う『あの子』とは、一体誰のことなのだろうか。そう思ったが、いつしか聞いたアーネストの婚約者のことだろう。すぐにそう思い直し、セイディはぐっと息を呑む。  そもそも、アーネストの婚約者とは一体どんな人なのだろうか? こんな行為を許容するほど、残虐な人なのだろうか? ……もしも、優しい人ならば。こんな行為、望んでいないだろうに。 「……アーネスト様」  狂気を孕み、憎悪を宿した目を持つアーネストに対し、セイディはそう声をかけた。そうすれば、「黙れ!」とアーネストは叫ぶ。その声は震えており、どうしようもない悔しさがにじみ出ているようだった。……多分だが、彼は完全に冷静さを見失っている。 「……なんもかも分かったようなフリすんじゃねぇよ。……何でもかんでも持ったような輩が、俺たちの気持ちを分かるわけがねぇ」  一気に乱暴になった口調に、セイディはほんの少しだけ驚く。でも、その驚きは本当に微々たるものだ。アーネストの口調は、常に丁寧だった。しかし、今の彼は冷静さを見失っている。つまり、これが本性と言うことなのだろう。今までのアーネスト・イザヤ・ホーエンローエという人物は、アーネスト自身が作り上げた理想の自分なのだろう。
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