アーネスト、現る(2)

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「あぁ、分からねぇ」  冷静さを見失ったアーネストに対し、ミリウスは淡々とそんな言葉を告げる。その言葉に驚いたのは、セイディではなくアーネストだった。ミリウスは驚いたアーネストの隙を突き、その剣を弾き飛ばす。その瞬間、アーネストの身体がふらついた。 「俺には、お前の気持ちなんてちーっとも分からねぇ。そもそも、分かるつもりもねぇ」  そこで一旦言葉を切り、ミリウスは冷たい目でアーネストのことを見下ろした。……その目が宿す感情は、呆れ。諦め。そして――怒り。そんな複雑な感情たちが交錯し、なんとも言えない視線を醸し出していた。 「お前らみたいな、自分勝手な輩の気持ちなんて、分かりたくもねぇ。……アーネストも、ジョシュアも。究極の自分勝手だよな。……人の上に立つ者として、失格だ」  淡々と告げられるミリウスのその声には、言葉に出来ない迫力があって。セイディは、アーネストの顔をただ見つめた。アーネストの目は、明らかに揺れている。 (アーネスト様やジョシュア様にとって、自分たち以外は悪なのよね)  それは確かに究極の自分勝手であり、自分本位なのだろう。が、きっとそうなったのには訳があるはずなのだ。アーネストは言っていた。「何でもかんでも持っている輩」と。彼は、何か明確な原因があって歪んだ。セイディの直感は、そう告げていた。 「……うるさい」  視線を下に向けながら、アーネストはそう言っていた。……その後、彼はただ「うるさい!」と叫び出す。その姿は、まるで癇癪を起した子供の様で。……哀れに、見えてしまった。 「何が王弟だ。何が聖女だ。そんな奴ら、全部全部ぶっ壊す。……俺は、俺たちは――」  ――自分たちの大切な存在以外、どうでもいいんだよ!  そう叫んだアーネストは、今まで以上に憎悪の籠った目で、ミリウスとセイディを見据えていた。
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