狂気と慈愛

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 その後、アーネストは剣を拾いミリウスの方に向かってくる。そのまま、切りつけてきた。 「くそっ」  ミリウスのそんな声が、セイディの耳にも届いた。ミリウスの大剣はミシミシと音を立てており、アーネストが何かをしたのは一目瞭然で。セイディは、援護しようかと光の魔力を使う準備をする。しかし、ミリウスは「やめろ!」とセイディに言葉を投げつけてきて。 「お前、逃げろ!」 「で、ですが……!」 「……アシェルの元に……いや、この先にリオがいる場所がある。そこまで行け!」  強くそう命令され、セイディは一目散に駆け出した。聖女の衣装の裾を掴み、そのまま全力でダッシュする。 (……アーネスト様、正気じゃなかった)  もしかしたら、身体強化の魔法でも自身にかけたのかもしれない。そうなれば、ミリウスでも敵うかどうか分からないということだろう。……身体強化の魔法は、あまり褒められたものではないという。リミットを超えてしまえば、自身の身体に多大なるダメージが加わるから。そのため、扱いは慎重にする必要があったはずだ。少なくとも、冷静ではない者が使っていいわけがない。 (……わた、し)  何も、役に立てていないのではないだろうか。そう思って、下唇を噛んでしまう。役に立ちたい。そう思っても、戦闘になれば聖女の出る幕はない。大人しく、邪魔にならないように縮こまっているしかないのだ。それは、分かる。でも……悔しい。 (強くなれたら。私も、戦えるくらいの力が欲しい)  そんなもの、ないものねだりだと分かっている。が、そう思ってしまう気持ちを止められなかった。
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