狂気と慈愛

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「――代表聖女、さま」  後ろから、誰かに手首を掴まれた。それに驚いてそちらに視線を向ければ、そこには――アーネストと同格なほどに、美しい男性がいた。彼のその銀色の髪が風に靡き、太陽の光でキラキラと光る。……声は、男性にしては高い声だった。 「……ふふっ、警戒されていますか。……まぁ、当然ですよね。だって、僕は不審者ですから」  その男性は、クスクスと笑いながらそう言う。その目は細められており、その色はよく分からない。が、声に敵意は感じられなかった。 (……何、この人)  美しく、儚い。アーネストが狂気に満ちた男性だとするのならば、この男性は慈愛に満ちた男性のようで。……セイディの心が、落ち着いていく。だが、ハッと正気に戻り男性の手を振り払った。 「……あな、たは」 「僕の名前はクリストバルと言います。……今は、それだけで十分でしょう」  男性――クリストバルはそれだけを言うと、セイディに手を伸ばしてくる。そして――彼は、セイディに治癒魔法をかけた。……その瞬間、セイディの身体に体力が戻ってくる。 (……何、これ)  光の魔力は、量も重要だが、使いこなせるかどうかも重要である。セイディは浅く広くを学んでいたため、他者の体力を瞬時に回復させることは無理だった。 「さぁ、行ったらいいですよ。……代表聖女様」 「あ、あの……」 「僕は、あの人を食い止めておいてあげますから」  クリストバルがそう言うと、周囲から誰かの足音が聞こえてきた。……その足音は、間違いない。――ジョシュアのものだ。 「……あぁ、礼とかは気にしないで。またいずれ、会えるでしょうし」 「……どういう意味、ですか」 「こっちの問題ですよ。――行きなさい。――の血を引いた者」  最後の方の言葉は、よく聞こえなかった。だが、今ここでたむろしている場合ではない。そう思い直し、セイディは一目散に駆け出した。後ろでは、クリストバルの心地よい笑い声が聞こえてきた。  ☆★☆ 「……さて、戦いましょうか。ジョシュア・ロジェリオ・フライフォーゲル」 「……ったく、面倒な奴に捕まったなぁ」  ――クリストバル・ルカ・ヴェリテ公爵よぉ。
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