初日の始まり

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 首を横に振りながら、ジャックはそう言った。……きっと、騎士や魔法騎士などの前線に立つ人たちにとって、それは名誉なことなのだろう。セイディからすれば、そうは思えないが。  でも、それはきっと自分の頭が聖女としての考えで支配されているから。フレディは以前、「考えが違う」と言っていた。そういうことなのだ。 「ま、死なないことが、一番、か。……俺としても、そう簡単にやられるつもりはないしな。……あの男を退けるには、手段なんて選んでもいられない」  そう言ったジャックの声音は、とても真剣なものだった。だからこそ、セイディは「……そう、ですね」とだけ返事をする。  そうだ。今は、アーネストのことを一番に考えるべきなのだ。あの人物がどういう風に行動してくるかが分からない以上、下手に行動するべきではない。セイディの役割は、この王国を守るために存在するものでもある。だったら、自分はプラン通りに行動するだけ。 「……セイディ様。そろそろ、大丈夫でしょうか?」  それからしばらく二人で雑談をしていれば、扉越しに女性のそんな声が聞こえてくる。そのため、セイディはジャックに視線を向けた。その視線を見てか、ジャックは静かに頷いてくれる。どうやら、彼の方も準備万端らしい。 「……行くか」 「そうですね。……改めて、今日一日よろしくお願いいたします」 「あぁ。……少なくとも、俺は代表聖女がお前でよかったと……思って、いる」  最後の方の言葉は、何処か消え入りそうなほど小さかった。その言葉の意味がよく分からずにセイディが疑問符を頭上に浮かべていれば、ジャックは小さく「……ほかの女だったら、何を話していいかが全く分からなかったからな」とぼやいていた。……どうやら、彼は何処までも女性が苦手らしい。 (それって……いい意味で捉えればいいの? それとも、悪い意味で捉えればいいの?)  裏を返せば、それはセイディが女性と認識されていないということではないだろうか? 一瞬そう思ったが、そんなことを気にしている余裕などない。……だって、セイディはジャックに意識されようがされなかろうが、関係ないと思っているのだから。
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