721人が本棚に入れています
本棚に追加
澄んだような声で、そう言われる。その所為で、セイディは何も言えなかった。導きなんて言われたところで、困ってしまうのだ。セイディは神様をまぁある程度信じている。でも、神頼みなんてほとんどしない主義だ。現実主義者といえばいいのだろうか。まぁ、ともかく。そういう性格だった。
(……導き。それは……もしかして)
いや、その可能性は明らかに低いだろうな。心の中でそう自分に言い聞かせ、セイディは首を横に振る。自分が考えていたあの可能性は、きっとない。だから、考えるだけ無駄だ。そう思い、セイディはゆっくりと「リオさん」と彼の名前を呼んだ。
「どうしたの?」
「……私、きちんとやりますから。聖女の仕事も――メイドの仕事も」
「そう」
一体いつまでメイドを続けられるのかは分からない。それでも、与えられた仕事は全うするしかない。それはセイディだって分かっているし、それが間違ったことではないということも分かる。
「……じゃあ、行きましょうか。団長のことは、心配だけれどそれよりも今はやることがあるわ」
「分かっています」
一度だけ俯き、肺いっぱいに空気を吸う。まっすぐに空を見上げ、息を吐く。落ち着け、落ち着け。まだ、焦る時じゃない。
(そうよ。ジャレッド様だって何とかなったじゃない。……私は、負けたりしないのよ)
一歩を踏み出し、セイディは自分にそう言い聞かせた。負けない。アーネストにも、ジョシュアにも。そして――マギニス帝国の皇帝にも。そもそも、負けるのは嫌いだ。諦めるのは――もっと、嫌いだ。
「行きましょう、リオさん」
「分かっているわよ」
まだまだ、やることはたくさんある。今日だって、終わっていないのだ。
(導きだろうが何だろうが、クリストバル様は私のことを助けてくださったわ。……その恩に、いつか報いたい)
そのためには、生きるしかないのだけれど。心の中でそう唱え、セイディはまた一歩一歩、踏みしめるように足を前に出していた。
最初のコメントを投稿しよう!