夜の訪問者(※変な意味ではない)

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 その所為で、セイディは戸惑うことしか出来なかった。そんなセイディを一瞥し、ジャックは「変な意味じゃないからな!」と慌てふためく。……どうして、彼はこうも変なことを口走るのだろうか。そう言われたら、逆の意味を想像してしまうじゃないか。心の中でそんなことを考えながら、セイディは「承知しております」と言って目を瞑る。 「ジャック様が変な理由でそうおっしゃっているわけではないことくらい、私にも分かっております。……だって、ジャック様ですから」 「……どういう意味だ」 「そのままの意味ですよ」  ジャックは堅物だし、器用なことは出来ない。言葉だっていつもストレートだし、仕事方面からずれれば不器用だとセイディだって知っている。だから、変な意味で言っているわけではないことくらい、分かっているのだ。 「ジャック様、不器用ですから」 「……悪かったな、不器用で」 「いえいえ、私はそういう人の方が好きですよ。……裏表がないって、素敵じゃないですか」  少しだけ口元を緩めてそう言えば、何故かジャックが硬直しているのが分かった。自分は何か、変なことを口走ってしまっただろうか? そう思い首をかしげれば、彼は「……そうか」と何でもない風を装って言葉をくれた。だが、セイディには分かった。……彼が、ほんの少しだけ照れていることに。多分、彼はこういう風に女性に褒められることに慣れていないのだろう。ジャックだって公爵家の令息。女性の言っている言葉が建前なのか本音なのかくらい、容易に見抜けるはずだから。
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