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一体、いつの間にそんなことをしたのかと問いかけたかったが、今はそれどころではないのだ。それに、犯罪者と対面するのに無防備と言うのはいささか問題があるものだ。セイディは、自分自身にそう言い聞かせ、ジャレッドを見つめる。
(……なんていうか、何の感情もわいてこないわね)
何故だろうか。今になったら、もう何も言うことがない。何も伝えることがない。だから、どう話を切り出せばいいのか。そんなことをセイディは思ってしまうが、悩んでいても埒など明かない。ここは、直球に言うしかないのだ。
「お久しぶりです、ジャレッド様。こういう風に対面するのは、いつぶりでしょうか?」
でも、とりあえず世間話から行った方が良いかもしれない。そう思い、セイディは表情がひきつるのを実感しながら、そう声をかける。そうすれば、ジャレッドは「……そうだな」と何処となく弱々しい声で言葉を返してくれた。
「……お前が代表聖女になるなど、予想もしていなかった」
「私も、です」
会話が、終わった。
全くと言っていいほど、会話が弾まない。もちろん、これはお見合いなどではなく取り調べの一環なので、会話を弾ませる必要はこれっぽっちもない。だが、気まずいのだ。とにかく、気まずくて気まずくて仕方がないのだ。
そう思いジャックに視線だけで助けを求めれば、そんなセイディを見て声を発したのは何故かジャレッドだった。
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