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「ジャレッド様。何処をどう見てそんなことをおっしゃるのですか」
一人慌てふためくジャックを一瞥し、セイディは淡々とそう言葉を返してみる。すると、ジャレッドは「……だって」とほんの少しだけいじけたような表情をする。全く可愛くないが、なんというか意外な表情だ。そう思って、セイディは軽く驚いてしまった。
「僕といた時よりも、ずっと楽しそうな表情をする」
「……」
「あの後、ずっと一人で考えていたんだ。僕はセイディに近づこうとしていなかった」
「……それ、は」
それは、セイディも理解していたことだった。二人が二人とも歩み寄ろうとはせず、互いを疎み見放していた。だからこそ、あんな結末になってしまったのだろう。多分、どちらにも非があったのだろう。
「僕は甘い言葉だけをくれるレイラの方に流された。……今ならば、分かるんだ。セイディが僕のためにいろいろと怒ってくれていたことに」
ジャレッドは目を伏せてそんなことを告げてきた。……ようやく、分かってくれたのか。そう思う気持ちはあるが、どうしても思ってしまうのだ。今更遅いと。どう足掻いても過去には戻れないし、どう足掻いても元の関係に戻ることはない。もう、自分たちの関係は終わったのだ。婚約破棄という四文字によって。
「……レイラは、どうしていますか?」
その後、セイディが絞り出した言葉はそんな言葉だった。レイラのことは、元々気になっていたのだ。そのためそう問いかけたのだが、ジャレッドは首を横に振り「分からない」と言う。ジャレッドはレイラに心酔していたように見えた。なのに、今ではそんな様子はない。目が、覚めたのかもしれない。それか、気持ちが冷めたのだろう。そう思い、セイディはただ「そうですか」とだけ言葉を返した。
(レイラの様子が、知れればよかったのだけれど)
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