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「神殿には戻れない。もう、廃嫡も免れない。……だから、僕はここで罪を償う。……セイディも、助けてくれないようだしな」
一体、何が彼の心情を変えたのだろうか。ジャレッドは、こんなにも物分かりのいい人物ではなかったというのに。そう思うセイディの気持ちを読み取ってか、ジャレッドは「……いろいろと、考えたんだ」と言葉を告げてきた。
「長い夢を見たような気がするんだ。……その夢は甘くて、甘美な夢だったような気がするんだ」
「……はぁ」
「きっと、その夢は僕の理想だったんだよな。……目覚めた時、現実とのギャップに絶望した」
目を伏せながらそう言うジャレッドに、セイディの中で同情が芽生えたような気がした。とは言っても、本当に小さなものだ。小さくて、今にも消え入りそうなもの。大々的に言えるような大きさではない。
(ジャレッド様は、いわばレイラの被害者なのよね)
きっと、物事の元凶はジャレッドではなくレイラなのだろう。セイディからすべてを奪ったのもレイラ。きっと、その所為でジャレッドへの憎しみが薄れている。それは容易に想像が出来た。
「……一つだけ、確認したいのですが、よろしいでしょうか?」
そして、セイディはジャレッドに静かにそう尋ねた。そうすれば、彼はこくんと首を縦に振る。
「ジャレッド様は、未だにレイラのことを愛していますか?」
その問いかけに対する回答は、セイディにも予想がついている。今のジャレッドの態度を見るに、レイラのことは愛していない。それでも、そう問いかけたかった。その理由は分からない。もしかしたら、彼のことを許せるか許せないかとか、そういう問題に関連しているのかもしれない。
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