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その後、セイディとジャックは並んで王宮の廊下を歩く。途中、数人の侍女とすれ違ったのだが、彼女たちはジャックを見て頬を染めていた。……ジャックも、やはり相当モテるらしい。当の本人は、露骨に顔をしかめていたのだが。きっと、侍女たちはそのことには気が付いていないだろう。
「いつも思いますけれど、ジャック様も大層モテますよね」
「……なんだ、急に」
あまりにも無言だったため、セイディからジャックに声をかけてみる。彼は自ら話すことは少ないが、それでもセイディが声をかければ反応してくれることが多い。だから、話しかけるのは苦ではない。でも、話題のチョイスはかなり難しい。
「いえ、先ほどの侍女の人たちを見ていると、そんなことを思いまして」
以前街でばったりとあった時も、ジャックは女性から熱い視線を浴びていた。騎士も魔法騎士も、高給取りである。それに、貴族が多い。そうなれば自然と女性はすり寄ってくる。ジャックはそういう面も考慮して、女性が苦手なのかもしれない。
「……まぁ、迷惑だがな」
セイディの言葉に、時間差でジャックはそう返してくる。……ジャックならば、そう返してくると思っていた。そんなことを考えながら、セイディは苦笑を浮かべる。女性にモテることを嬉しがる人種の方が多いかもしれない。それでも、確かにジャックのように嫌がる人種も一定数いるのだ。
「ジャック様は……恋、とか、されたことがありますか?」
「どうした、いきなり」
前を向いたままセイディがそう問いかければ、ジャックは怪訝そうにそんな言葉を返してくる。まだ一刀両断されなかっただけ、マシな返事なのだろう。そう思いながら、セイディは「気になっただけです」と言う。
「恋なんてしたことがない。……そもそも、俺は異性が苦手だからな」
「そうなのですか」
「まぁ、立場上いつかは婚姻しないといけないことは、分かっているがな」
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