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だから、自分が言える言葉はこれだけなのだ。そう思いながらセイディが表情を緩めれば、ジャレッドは「……そうか」と回答をくれた。そんな彼の様子を見つめ、セイディはクスっと声を上げて笑ってしまう。……彼と、まさかこんな風に話す日が来るなんて。それは、不思議な感覚だ。
「ジャレッド様」
「……セイディ?」
そして、セイディはジャレッドの顔をまっすぐに見つめる。そのまま、ゆっくりと口を開いた。
「貴方の罪が、消えるわけではありません。でも、私は必要以上の罰は望みません。なので、どうか大人しく罪を償ってくださいませ」
「……それは、聖女としての意見なのか?」
「そんなところ、ですかね」
聖女は人を赦すことも必要だ。それは、ヤーノルド神殿で学んだことだった。それをジャレッドに告げるのはなんという皮肉なのかは分からない。それでも、この文章を述べるのは今だと思った。
「……セイディ」
その言葉を聞いたジャレッドの言葉は、とても優しかった。多分、彼は本当に変わったのだろう。アーネストがそのきっかけを作ったと考えれば、なんというか微妙な気持ちになる。でも……きっと、いい変化だ。そう、セイディが思っていた時だった。
「――っつ!」
不意に襲ってきた苦しみに、胸を押さえ込んでしまう。
「おい!」
遠のいていく意識の中、かすかに聞こえたのはほかでもないジャックの声。
(……なんだか、瞼が、重い)
目を開けていられない。そう、思ってしまった。
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