アーネストの狂気(1)

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「あぁ、貴女の想像するような状態にはなっていませんよ。俺たちが準備したのは、ただ意識が剥離する毒です。つまり、貴女の意識をここに呼び寄せただけ」  手のひらをひらひらと振りながらアーネストはそう告げ、コホンと一度だけ咳ばらいをする。多分、彼は今から重要なことを言おうとしている。それが分かるからこそ、セイディは唇をぎゅっと結び、アーネストのことを見据える。 「俺には狙いなどありません。俺が欲しいのは俺と俺の婚約者が平和に暮らせる場所。それだけですから」 「……そう、ですか」 「でも、皇帝陛下は違いますよね。あのお方にはきっちりとした目的があって、その目的のために動いている。そのためならば、手段なんて選びません」  次にアーネストは目を閉じて、そんなことを言ってくる。ただ淡々と。何の感情も宿さないような声で。開いた目に宿った感情も……まさに、無。 「俺はあのお方と約束しました。協力してくれたら、俺と婚約者の願いを叶えてくれると」 「……ジョシュア様も、ですか?」 「そうですね。俺たち側近は、自らの願いを叶えるために皇帝陛下に従っております」 「つまり、忠誠などないと」 「いえいえ、最低限はありますよ」  セイディの問いかけにアーネストは答えをくれる。その答えは、多分本当のこと。何処となく歪に感じても、本当のことなのだろう。それに、マギニス帝国の皇帝ならば一人二人の願いを叶えることなど、容易いだろう。金も権力も力もあるのだから。 「……俺とジョシュアは、貴女を始末するようにと皇帝陛下に命令を受けました。ただ……邪魔者が、入ってしまいまして」  多分、アーネストの言う邪魔者とはあの時セイディのことをジョシュアから庇ってくれた男性のことだろう。それは、セイディにもすぐに想像が出来た。そして、彼の正体も。
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