美しき慈愛(1)

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 ふと窓の外を見つめれば、木々が風に揺られてざわめいていた。その瞬間、セイディの背筋にうすら寒いものが走ったような気がして。そのため、セイディは腕をこする。……なんとなく、不気味な魔力を感じてしまう。 (うぅ、準備だけ終わったらもう寝ましょう。これ以上、体力を消耗するわけにもいかないし)  自分自身にそう言い聞かせ、近くに置いてあった衣装などのチェックを行う。どうやらジャックは気を遣ってくれたらしく、医務室で準備が出来るようにとしてくれたらしい。  そうやって準備を行っていれば、不意に声が聞こえてきたような気がした。それは、窓の外からのような気がした。……怖い。けれど、ちょっと気になるかも。それに、今の声には確かに聞き覚えがあるのだ。……敵意も、何も籠っていないのも、関係している。  だからこそ、セイディはゆっくりと窓の方に近づき、窓の外を見つめる。 「……気のせい、かしら?」  でも、誰もいなかった。もしかしたら、先ほどまでその人物のことを考えていたため、聞こえてきただけの声なのかもしれない。そう思い、踵を返そうとした時だった。 「――セイディ・オフラハティ、さん」  もう一度、その人物の声が聞こえた。優しくて、ゆったりとして、聞いていて心地の良い声。その声の人物に、セイディは確かに助けられている。 「……クリストバル・ルカ・ヴェリテ、さま、ですよね?」  リオから聞いた名前をゆっくりと口ずさめば、その人物は「そうだよ」と言ってその姿を現した。
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