美しき慈愛(2)

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 そのセイディの手を見つめ、クリストバルは何か呪文を唱える。それからしばらくして、セイディの手のひらの上に一つの指輪が落ちてきた。……その指輪に、セイディは見覚えがある。いや、ちょっと違うかもしれない。この指輪は、似ているだけだ。実際、セイディの知っているものではない。 「……あの、これ」  その指輪をじっと見つめながらセイディがそう声を出せば、クリストバルは「……貴女なら、使いこなせるかと思いまして」と言ってくる。  指輪はシルバーのシンプルなデザインだ。しかし、ところどころにあしらわれた装飾の繊細さから、とても高価なものに見える。でも、それよりも。……この指輪は、セイディが実母の形見として唯一持っていた指輪にそっくりなのだ。それこそ、同じ職人が作ったのではないかと思えるくらいには。 「その指輪は、ヴェリテ公国のとある職人が作り上げたものです。聖女の力を増幅させることも出来る。……もしかしたら、貴女に必要になるかもしれないので」  クリストバルは淡々とそう告げてくる。  聖女の力を増幅させるというところも、実母の形見の指輪と一緒だ。そして、何よりも。……ヴェリテ公国のとある職人と、クリストバルは言った。それはつまり、実母の形見であるあの指輪も、ヴェリテ公国で手に入れたものなのだろうか? (けど、どうしてお母様がヴェリテ公国に……?)
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