美しき慈愛(2)

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 少しだけ、ほんの少しだけ実母がヴェリテ公国とかかわりがあるのでは……という想像は、した。けれど、その考えはいつも振り払っていた。セイディの実母は力の強い聖女の可能性が高いらしい。ヴェリテ公国の聖女は力が強いので、何か縁があるのかもしれない。だが、その可能性はあったとしても低すぎるし、不確定なのだ。 「……あの、この指輪のこと、教えていただいても構いませんか?」  そう思ったら、セイディの口はそんな言葉を紡いでいた。もしも、実母のことを知れるのならば。その一心だったが、クリストバルは唇に人差し指をあて、「すみませんが、僕には時間がありません」と言う。……やっぱり、図々しかったらしい。 「ですが、何か縁があればお教えすることが出来るかもしれないですね」 「……縁、ですか」 「はい。僕は貴女とあと数回会えるような気がします。僕はこの『光の収穫祭』が終わったらヴェリテ公国に帰りますけれどね」  クリストバルはそんな言葉だけを残すと、颯爽と立ち去ってしまう。残されたのは、セイディとその手のひらに載った指輪。……何だろうか。クリストバルは、何かを知っている。それは、セイディの直感が告げていた。  そのため、セイディはその指輪を握りしめる。クリストバルが何を思ってセイディにこれを手渡してきたのかは、これっぽっちも分からない。しかし、多分セイディの何かを買ってくれたということなのだろう。それに、クリストバルは「あと数回会えるような気がする」と言っていた。だから、この指輪を返すことも出来るはずだ。  窓の外を呆然と見つめていたセイディだが、不意の夜風の所為でくしゃみをしてしまう。……あぁ、夏も完全に終わったなぁ。こんなことをしていたら、風邪を引いてしまう。そう判断し、セイディは窓を閉めて寝台の方に近づいていく。 (……クリストバル様の狙いは、分からない。でも、私はやるだけよ。アーネスト様にも、ジョシュア様にも負けない)  明日が、多分今回の決戦になるのだろう。それが分かるからこそ、セイディは二つの指輪を握りしめた。何処となくデザインが似ているのは、並べるととてもよく分かった。
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