最終日の始まり

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 そんなことを考えてセイディが歩を進めていると、不意にミリウスが「セイディ」と声をかけてくる。その言葉に驚き、セイディが足を止めてミリウスの方を振り返れば、彼は「……昨夜、誰かと会っただろ?」と問いかけてきた。昨夜。つまり、クリストバルのことか。 「はい」  この場合、嘘をついてもメリットはない。そう判断し、セイディは素直に首を縦に振る。そうすれば、ミリウスは「……あの姿を見るに、ヴェリテの公爵か」と告げてくる。そのため、セイディはもう一度頷いた。 「あの男の狙いは、分かっているのか?」 「……いえ」  ミリウスの言葉に、セイディはそう返す。実際、クリストバルの狙いは一切わからない。リア王国を助けたところで、彼にはメリットなどない。むしろ、労力を使ったというデメリットが発生する。ただ分かることは、彼には確かな狙いがあるということ。 「ですが、あのお方には何か狙いがあります。だからこそ、私たちを助けてくださっているのだと、思います」  ポケットの中に入れた指輪を握りしめながら、セイディはそう告げる。もしも、クリストバルが完全な気まぐれでセイディたちを助けたのだとすれば。それは、一度で済むはずなのだ。二度目はない。なのに、昨夜クリストバルはセイディに指輪を託してくれた。そう考えれば、クリストバルには確かな狙いがあるのだ。
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