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「……そうか。俺が知る限り、あの男は無駄なことをしない。何かメリットを見出して、セイディを助けようとしているんだろうな」
セイディの言葉を聞いたミリウスは、そう言うと「で、何を貰った」と続けて問いかけてくる。……そこまで、分かっているのか。そう思いながら、セイディは「聖女の力を高める指輪を、いただきました」と返事をし、ポケットの中から昨夜クリストバルにもらった指輪を取り出す。
「これを、いただきました」
指輪の装飾は、とても美しい。暗闇の中でもその美しさは分かったが、明るいところに持ってくるとその美しさが余計にそれが際立つ。
「これ、私のお母様の形見とそっくり……だったり、するのです。まぁ、偶然でしょうけれど」
苦笑を浮かべながらセイディはそう言って、その指輪をポケットに戻す。実母がヴェリテ公国と関わりがあるのかもしれない。それは、昨夜ずっと考えていた。けれど、答えなど出なかった。それに、今はそんなことを深く考えている場合ではないのだ。今は、偶然と言うことにしておいた方が良い。
「……そうか。見せてくれてありがとな。……とりあえず、その指輪も利用できるだけしろ。それが、俺が言えることだ」
「はい」
そんなミリウスの言葉に肯定の返事をして、セイディはもう一度前を向いて歩き出す。
王宮の入口にたどり着けば、そこには昨日一昨日と乗った馬車が止まっていた。御者は、違ったが。
「じゃあ、行くか」
「はい」
「最終日、気を引き締めるぞ。お前も、殿下もな」
「分かっております」
ミリウスとジャックの言葉を聞きながら、セイディは頷いた。その真っ赤な目には、強い意思が宿っていた。
『光の収穫祭』の最終日が――始まる。
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