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セイディが真剣に考え込んでいれば、ミリウスはふと真剣な声音でそう告げてきた。その言葉に返事をすれば、彼は「人の行為ってのはな、巡り巡って自分に返ってくるんだ」と意味の分からない言葉を告げてきた。
「……それ、は」
「例えば、セイディが多数の人を助けたとする。そうすれば、その行いは必ず自分の元に返ってくる」
「……はぁ」
「だからな……アーネストの奴やジョシュアの奴が行っている行動は、いずれ自分たちの身を滅ぼすことに繋がってしまう」
つまり、ミリウスはアーネストやジョシュアたちが作り上げる世界は理想郷ではないと言いたいのだろう。それを感じ取り、セイディは目を伏せた。実際、理想郷とは誰もが憧れる夢のような存在なのだ。セイディだって、理想郷があればいいと思う。が、それを作り上げるためには血が流れてしまう。……アーネストや、ジョシュアたちがやっているように。
「完璧な世界なんて、ない。完璧な箱庭なんて、ない。いずれは、それをあいつらも分かればいいんだけれどなぁ」
ぼやかれたその言葉に、セイディは何も言えなかった。ミリウスは、アーネストやジョシュアのこともそれなりに考えている。それが、先ほどの言葉で嫌というほど伝わってきた。自分も考えているつもりではあった。しかし、所詮はつもりだったのだろう。
(アーネスト様やジョシュア様の心も、救えたら)
そう思う。まぁ、その役目をセイディが担うことはないのだろうが。彼らには愛する人がいる。それは、セイディも知っていること。
(けれど、諭させることは出来るはず。……小さな棘は大きくなって、いずれはその存在を無視できなくなる。今は、それでいいわ)
今は、彼らを止めるだけだ。彼らが、これ以上罪を重ねないようにするだけだ。今のセイディたちに出来ることは……それだけ、なのだから。
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