『光の収穫祭』開始(1)

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「聖女としてのお前は、本当に外面が良いなぁと思っただけだ。……メイドの時とは、違う」 「当り前ですよ。聖女は民たちにとって憧れの存在でもあるのですから。それに、代表聖女は特にそうです」  ヤーノルド神殿に従事していた頃から、『光の収穫祭』には聖女として参加していた。とはいっても、代表聖女以外は基本的には交代制なので、楽しむ時間はまだそこそこあった。まぁ、セイディが例年の『光の収穫祭』を楽しんでいたかと言うのは、また別問題だが。 「代表聖女は王国の繁栄の証。……そう、習いましたから」 「そうか」  馬車に軽く揺られながら、セイディはジャックのことをまた見据えた。……しかし、なにを話せばいいかが全く分からない。彼も彼で、この場を気まずく思っているのだろう。  ……ちょっと、からかってみたいかも。一瞬そんな邪な感情がセイディの頭の中に生まれるが、その感情にはぐっとふたをした。……うん、やはりダメだ。ジャックに冗談はあまり通じないのだから。 「ところで、お前」 「はい」  が、いつまでお前呼ばわりを続けるのだろうか。セイディは良いとしても、普通の女性がお前呼ばわりをされたらどう思うだろうか。そういうところも直さないと、いつまで経っても婚姻できないぞ。余計なお世話だろうが。 「お前は……その」  絶対に、話題を決めていなかったな。ただ、気まずいから声をかけただけだろうな。それはセイディにも容易に想像が出来たので、セイディは「私から一つ、よろしいでしょうか?」と小さく手を挙げて問いかける。そうすれば、ジャックは「あぁ」と返事をくれた。 「私は別にお前と呼ばれても怒ったりはしませんが、普通の女性は怒りますからね」 「……そうか。ところで、どうしてお前は怒らない」 「もう、諦めました」
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