『光の収穫祭』開始(1)

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 当初はジャックに名前で呼んでくれと確かに言っていた。でも、どうやら彼のお前呼ばわりは癖のようなものみたいなので、直らないと早々に判断を下した。だから、もう何かを言うつもりはない。自分に関しては、だが。 「潔いな」 「そりゃあ、無駄なことは嫌いですから」  時は金なり。時間は有限である。無限ではない。ならば、無駄なことは容赦なく切り捨てていくのが正しい。セイディは、常日頃からそう思っている。時間をお金換算することは良いことなのかは分からないが、無駄なことをするくらいならばお金を稼いでいたいのだ。 「……善処する」  それはつまり、無理かもしれないということか。そう考えたものの、セイディは「頑張ってくださいね」とだけ言っておいた。ジャックの婚活に口を出すつもりはないが、せめて彼が幸せになれることを望むしかない。なんだかんだ言っても、悪い人ではないのだ。堅物で、無愛想で、仕事人間で、女性が苦手で。そういう点を除けば、彼は超がつく優良物件。……多分。 「ところで、だが」 「どうかなさいましたか?」  それからまたしばらくして、ジャックが声をかけてくる。そのため、セイディがジャックに視線を戻しそう返事をすれば、彼は「……調子、あまりよくないだろ」と言ってきた。 「いつものような覇気がない。……この間、魔力を使いすぎたんだろう」  ジャックはそんなことを言って、「無理だけは、するなよ」と続けてくれた。  ……やはり、彼はなんだかんだ言っても優しい人なのだ。それを実感しながら、セイディは「分かっています」と言って微笑んだ。その際に、ジャックが視線を露骨に逸らしたのにはもう――突っ込まない。
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