『光の収穫祭』開始(2)

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 それからしばしの時間が経ち。ジャックは不意に馬車の窓にかかるカーテンを開き、外をちらりと見つめた。その後「もうすぐ、最初の神殿だぞ」と声をかけてくる。  その声を聞いて、セイディは自身の衣装を軽くはたいた。今は聖女、それも代表聖女だ。いつものように、雑な格好をするわけにはいかない。それに関しては、初期の頃に習った。代表聖女は民たちの理想だと。憧れだと。 「……まずは、王都の端っこにある西の神殿だったか。……お前、本当に無茶するなよ」 「何度も言いますが、分かっていますよ」  ジャックはかなりの心配性だな。心の中でそう思い、セイディが口元を緩めればジャックは露骨に視線を逸らす。……これくらい笑いかけるだけでも、ダメなのか。そんなことを考えながら、セイディも馬車の窓のカーテンを少しだけ開き、外を見つめてみる。外では民たちが笑みを浮かべ、楽しそうに過ごしている。……この光景を、自分は守らなくてはいけないのだ。 (お母様。お母様の力、私に貸してね)  そんなことを心の中で呟いて、セイディは自身のポケットの中に入れていた形見の指輪を握りしめる。聖女の力は遺伝しやすい。そうなれば、自分の母もかなりの凄腕聖女だったということになる。だから、その実母の力を借りることが出来たならば。自分はそれなりにやることが出来るはずだ。 「……なぁ、お前」  セイディが一人でいろいろなことを考えていると、不意にジャックが声をかけてくる。一体、どうしたのだろうか? そう思いながらセイディは「どうか、なさいましたか?」と首をかしげながら問いかける。その言葉を聞いたジャックは「……お前は、誰かを恨んだりしないのか?」と、突拍子もなく問いかけてきた。 「……それは、どういうこと、ですか?」 「お前の境遇を、俺は知っている。だからな、父親のことや継母のこと、異母妹に元婚約者。あいつらのことを、恨んでいないのかと訊いているんだ」  ジャックはそんなことを続けるが、顔はセイディの方に向いていない。どうやら、気まずいらしい。
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