それが私の仕事ですから(1)

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「聖女様~!」  一人の女の子が、セイディの方に駆けよってこようとしたのだ。その母親であろう女性は、慌てたように女の子を止めようとする。それには明確な理由がある。『光の収穫祭』の代表聖女に一般市民が触れるのは、御法度だったりするからだ。 「――おい」  だからこそ、ジャックがその女の子を止めようとした時だった。不意に、女の子が近くの石かなにかに躓いて転んでしまう。地面は石畳ということもあり、女の子の膝には痛々しい擦り傷が出来ていて。しかも、女の子はその場で泣き出してしまった。 「走るからよ!」  母親であろう女性は、泣きじゃくる女の子を抱き上げながら、周囲に頭を下げていた。もちろん、セイディに対しても。  でも、セイディにはそれよりも気になることがある。それは、女の子の怪我の具合である。石畳の上で転んでしまえば、そこそこ痛いだろう。それに、膝からは血が出てしまっている。……あまり褒められたことではないかもしれないが、今、自分にできることは。 「……あの」  そう思ったからこそ、セイディは女の子と女性に声をかけた。それを見てジャックは一瞬だけ目を見開くものの、セイディの考えが分かったのか彼は静かに口を閉ざす。彼はこういうことに関しては察しが良い。それは、素直に助かっている。  そんなことを思いながら、セイディが女の子と視線を合わせれば、女の子は目に涙を浮かべながらセイディのことをじっと見据えていた。そのため、セイディは「大丈夫」とだけ女の子に告げ、その擦り傷の部分に手をかざす。
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