それが私の仕事ですから(2)

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(ダメ。今は――ダメ)  そう思い、セイディは衣装のポケットに入れていた実母の形見である指輪を握りしめた。  どうして、こんなにも頭痛が酷いのかは分からない。きっと、何か原因があるのだろう。そして、その原因として一番に考えられるのは――魔法石の件だろうか。 (……お母様)  こういう時に、誰に縋ればいいかが分からない。神様なのか、仏様なのか。はたまた悪魔なのか天使なのか。それが分からないからこそ、セイディは実母に縋った。記憶にない実母。それでもきっと――あの人ならば、助けてくれる。使用人たちが慕っていた、優しい母ならば。 『――セイディ』  そんな時、不意に見知らぬ女性の声がセイディの脳内に響いた。その声は、とても優しそうであり、慈愛に満ちた声。でも、何処となく芯の強さが表れてるような凛々しい声。その声は、セイディの頭痛を弱めていく。 『――セイディ』  何度も何度も呼ばれる、自分の名前。それから、瞼の裏に蘇る幼い頃の光景。 『……おかあさま?』  実母の専属侍女に抱き上げられ、寝台に横たわる女性に声をかける幼い頃の自分。横たわる女性は最後の力を振り絞ってか、セイディの頭を撫でてくれた。ただ、最後に告げた言葉は――。 『――貴女は、きっと――』  微かに、女性の口元が見える。それでも、彼女が何を言ったのかは聞き取れなかった。……もしかしたら、この光景は――。 「……お母様?」  もしかしたら、あの女性は実母だったのかもしれない。いいや、きっとそうだろう。そんなことを思いながら、セイディはハッと顔を上げる。  そうすれば、一番に視界に入ったのはジャックの真っ赤な髪。彼は、セイディのことを本気で心配してくれているらしく、「大丈夫か?」と声をかけてくれた。その手はセイディの背に添えられており、どうやら女性が苦手なりにセイディを介抱しようとしてくれたらしい。 「……は、ぃ」  ジャックの言葉に、セイディはただ端的に返事をする。今はもう、頭痛はなくなっている。あの頭痛が何だったのかは分からないが、きっと助けてくれたのだろう。 (……お母様)
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