悪女みたいですよね?

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 実母のことは、全くと言っていいほど覚えていない。それでも、あの女性は実母なのだろう。封印された記憶の片隅が、断片的に蘇ったような気が、する。しかし、そうなれば前々から抱いていた疑問がもう一度浮かび上がる。  ――どうして、自分は実母のことをこれっぽっちも覚えていないのだろうか。  と。 (お母様のお名前も、お姿も覚えていないわ。……思い出したい)  もしも、何かショックなことがあって忘れていたのだとしても。それでも、いつかは思い出したい。間違いなくそう思える。 「……おい、本当に顔色が悪いぞ」 「大丈夫です。ちょっと、頭が痛くて」  さすがに体調が悪いことを隠しきることは無理だろう。そもそも、ジャックには調子が悪いことはバレている。ならば、正直に言ってしまった方が楽だ。そんなことを思い、セイディはそう答えた。  そうすれば、ジャックは「……魔力不足か?」と問いかけてくる。確かに、この間の魔法石のことで魔力をかなり消費したことは分かっている。それでも、どうして今になって。あの時は、そこまで調子が悪いことはなかったはずなのに。  セイディがそう思っていると、不意にジャックが手を差し出してくる。それを不思議に思いながらセイディが手を差し出せば、ジャックはセイディの手の上に飴玉のようなものを一つだけ置いてくれた。……これは、何なのだろうか。 「魔力を補充する際に使うサプリメントのようなものだ。……魔法騎士は、基本的にこれを持ち歩いている。気休めにしかならないだろうが、使え」 「……ありがとう、ございます」  それは、ジャックなりにセイディのことを気遣ってくれた証拠だろう。それに、気休めにしかならないと分かっていても差し出してくれるのは、きっと彼なりの優しさ。そう思いながら、セイディはその飴玉のようなものを口の中に入れる。味はあまり感じないが、仄かに甘い。お菓子ではないので、美味しいわけがない。それでも、食べやすい味だった。
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